「嘘しか言えないお姫様の話」
昔々、あるところに嘘しか言えないお姫様がいました。
お姫様は何も悪いことはしていないのですが、きまぐれな魔女によって「嘘しか言えない呪い」をかけられてしまったのです。呪いをかけた理由なんてものはきっと魔女自身にもわからないでしょう。魔女というのはそういうものですし、魔女はいつだってきまぐれなのですから。(だって皆さん想像してみて下さい。魔女がきまぐれでなかったら、いったい誰がきまぐれになればいいというのでしょう!)
でも、お姫様は何一つ不自由することはありませんでした。なぜって、お姫様も周りの人も皆呪いのことを知っていたのですから、お姫様は自分の言いたいことと反対のことを言えば気持ちを伝えることができたのです。お腹がすけば「食欲がない」と言えばいいのですし、眠たければ「眠たくない」と――愛を告げたければ「あなたなんて好きじゃない」と、そう言えばいいのです。
そうして美しく健やかに成長したお姫様は隣国の王子様と結婚しました。それは政略結婚(意味がわからない人はお父さんかお母さんに聞いてみましょう)と言ってよいものでしたが、幸いなことに王子様はお姫様を心から愛してくれました。王子様は呪いを含めたお姫様の全てを愛し、王子様はお姫様を世界でたった一つの宝物のように大切に扱いました。二人の結婚生活はとても幸福に満ちたものでした。
そんなある日、王宮を一人の旅の魔法使いが訪れました。魔法使いは若くして天才と呼ばれ、行く先々で数々の奇跡を起こしてきたと評判の魔法使いでした。(魔法使いが理由も無く人助けをすることは皆さんご存知ですよね?)
謁見の間に通された魔法使いは王子様に言いました。
「姫様の呪いの噂を聞いて参りました。私に任せていただければ魔女めにかけられた呪い、完全に解いてみせましょう」
「ふむ、そなたは姫にかけられた呪いを解けるというのだな」
王子様の言葉に魔法使いは誇らしげに答えました。
「恐れながら申し上げますが、姫の呪いを解くことが出来るのは、呪いをかけた魔女本人を除いては、近隣の国では私以外にはいないでしょう」
ずいぶんと大きな口をきいていますが、魔法使いの言葉に嘘はありません。実際、呪いを解ける魔法使いが近くにいたのならば、とっくの昔に呪いなんてとかれてしまっていたでしょうから。実力のある人間が自信に満ちているのは当然の事なのです。(謙遜が美徳と考えるのはハラキリニッポンジンの悪癖で、そしてここはニッポンではないのです)
王子様は魔法使いの言葉に満足げに深く頷きました。
「なるほど、それは良い事を聞いた。実に――実に、素晴らしい」
そして王子様は腰に刺した剣をすらりと抜き、魔法使いの首をはねました。これではいくら有名な魔法使いでももう生きてはいられません。(もし首をはねられて生きていたら、それは「魔法使い」ではなくて「魔法使いのような何か」になってしまいます!)
ひどくびっくりした表情のままで床に転がった魔法使いの首を見下ろして王子様は言いました。
「全く愚かな事を言う奴だ。呪いが解けてしまったら、いったい私はどうやって彼女の本心を知ればいいというのだ」
そして王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
< お し ま い >
あとがき
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