「論理パズル part2」
昔々、あるところに本当のことしか言わない正直者だけが住んでいる「正直者の村」と嘘しか言わない人だけが住んでいる「嘘つきの村」がありました。その二つの村はいわゆる隣村の関係で、街道から少し外れた道の先からそれぞれの村へ行くことができるようになっていました。
ある日、噂を聞いた旅人が――彼は人を騙す事で生計を立てている詐欺師だったのですが――「正直者の村」への道を歩いていました。ところが、善良な村人相手に一商売しようとしていた旅人は困ってしまいました。なんと二つの村へ通じる分岐点に設置されていた案内の立て札が倒れていて、どちらの道がどちらの村へ通じているかわからなくなってしまっていたのです。
するとその時、運のいいことに道の向こうからこちらへ一人の男が歩いてくるのが見えました。大きな荷物を背負った男に旅人は道を尋ねようとしました。ところが旅人がたずねる前に、先に男のほうから旅人に声をかけてきました。
「おいあんた、この道の先には嘘をつかない人間なんていやしないぜ。悪いことは言わねえ、今からでも引き返した方がいい。それじゃあ俺は先を急ぐんでな。あばよ」
「あ、え、ちょ、ちょっと……」
旅人が引きとめる間もなく、男は足早に街道へ向けて歩み去って行きました。そして一人取り残された旅人はじっくりと考えました。
もし、男が嘘つきの村から来たとすると、『嘘をつかない人間がいない』というのが嘘なのだから『嘘をつかない人間がいる』ということになって、嘘つきの村から来たという仮定と矛盾する。つまり、男は嘘つき村からは来ていないということになるはずだ。
次に、男が正直者の村から来たとすると、『嘘をつかない人間がいない』というのが本当だということになる。それは言い換えると『村にいる人間は嘘をつく』ということになるから、正直者の村から来たという仮定と矛盾する。つまり男は正直者の村からも来ていないことになるはずだ。
だから、つまり――どういうことなんだ?
そこまで考えた旅人は『考えても分からない時はとりあえず行動すべし』という彼の哲学から男がやって来た方の道へ向かうことへ決めました。そしてしばらく歩くと道の先に一つの村が見えてきました。
村へと足を踏み入れた旅人は村の光景に目を疑い、そして男の言葉が正しかったことを知りました。
そこに広がっていたのは一言で言えば悪夢でした。道端にはいくつもの死体が老若男女を問わず放置され、埋葬されることもなく腐臭を放っています。家々の中を覗いてみても、ベッドの上に寝かされた死体やその傍らに倒れた死体等があるだけです。恐らくは流行り病が一気に広がり、短期間の内に全滅してしまったのでしょう。正直者の村は、生者の存在しない死の村になっていたのです。
驚きから我に返った旅人は村の中でも比較的立派な家に目をつけ、そこの住人の死体を庭へと運びました。そして旅人は詐欺師から墓堀人夫になり、神父になり、最後に盗人になりました。
その家で一晩を明かした旅人は金目のものを持てるだけ持ち、家の住人のために少しだけ祈り、村を出ました。そして道が嘘つきの村からの道と合流している場所まで来たとき、分岐点で思い悩んでいる風の男の姿が見えました。男が自分に気づいたのを見て取った旅人は男に声をかけました。
「おい、あんた――」
<終劇>
あとがき
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