「さやかさんと死兆星」

「シチョウセイが見えるの」
 ポツリ。だしぬけに小夜香がつぶやいたので、真紀は反射的に問い返した。
「――何が見えるって?」
「シチョウセイ」
 小夜香は何を見るでもなく、病室の窓の外にただ視線だけをさまよわせたまま繰り返した。
 ――またか。真紀は思った。
 この傍らのベッドで上半身だけを起こしている「薄幸の美少女」のコンテストでもあればぶっちぎりで優勝しそうな容貌を持つ親友の唐突かつ意味不明な言動にはもう慣れてしまっている。もっとも、それがどこまで本気なのかは未だに計りかねる部分があるのだが。
 ――でも、「シチョウセイ」ってなんだろ? 
 真紀はその単語に聞き覚えがなかった。期待せずに小夜香の視線の先を追ってみたが、やはりそれらしいものは見えない。おまけに小夜香はそれ以上の説明をするでもなく、黙ったままだ。どうやらこちら側から会話を続けなければならないらしい。
「え〜っと、その、アレだよね。明治時代に行政の単位を市とか町とかにしたっていう……」
「違うわ」
 言下に切り捨てられてしまった。だが話しかけた効果はあったのか、小夜香は真紀の方を向きくすりと笑った。
「まーちゃんはシチョウセイのことを知らないの?」
「うん」
 なんだかそう言われると知らないことが非常識のような気がしてくるが、知らないものは仕方がない。真紀は素直にうなずいた。
「そう……じゃあ教えてあげるわ」
 小夜香はベッド横にある木製のキャビネットからペンとメモ用紙をとりだし、さらさらと何かを書きつけた。そして一番上の紙を切り取って真紀に差し出す。
 受けとった真紀が紙片に目を落とすと、そこには流麗な文字で「死兆星」と書いてあった。
 なるほど「シチョウセイ」だ。見覚えのない単語であることに変わりはないけど。
 顔を上げるとすかさず小夜香が解説を加えてくれた。
「それは北斗七星の脇にひっそりと輝く小さな星。その輝きは普段は人には見えないけれど、でも、あと一年以内に死んでしまう運命にある人にだけは見えるの。だから死を兆す星と書いて死兆星と言うのよ」
 なんというか、ものすごく嘘くさい話だ。というかどっからこんな妙な話を仕入れてくるんだろう。
 少しばかり呆れながら真紀は問いかけた。
「――で、その死兆星が見えるっていうのね」
「ええ、だから私の命は一年以内に尽きてしまうの。これは哀しいけど、運命なの……」
 言って、小夜香は寂しげに目を伏せた。
 普段はこういう仕草を見せられるとつい涙腺が緩んでしまうのだが、真紀は涙を流すかわりに大きくため息をついた。
「ねぇ小夜香さん、それはそれでいいんだけど――」
「なあに、まーちゃん」
 続きを促す小夜香に真紀は言った。
「ここの窓って南向きだよね」
 
<終劇>

あとがき

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