「君の名は」

 剣と魔法の時代、冒険者達はギルドに集い、パーティーを結成して数々のクエストに挑戦していた。そしてとある都市のギルドの隣にある酒場――ここは冒険者達が待ち合わせをしたり仲間を募集したりするのに利用されるのだが――で、冒険者風の身なりの若い男女が食事をしながら会話をしていた。
「やっぱり『通り名』って必要だと思うのよ!」
 酒の入ったジョッキを大きな音を立ててテーブルに置いてクリスは力説した。向かいの席でパスタを食べようとしていたジョーは一瞬固まり、フォークを皿に戻して半分呆れたような声で問い返した。
「通り名って、あのグレイ・『龍殺し』・ランドルフとか、そういうアレのことか?」
「そうよ! だって有名な冒険者はみんな通り名を持ってるでしょ。あたし達もこれから売り出していくわけだし、やっぱそれっぽくてかっこいい通り名の一つや二つは用意しておかなくちゃ!」
 クリスは椅子の上に立って片足をテーブルに乗せて力説した。普段から騒がしい酒場の中ではそれほど目立たないが、目の前のジョーからはめくれあがったミニスカートの奥の本来見えちゃいけない部分がもろに見えてしまっている。目のやり場に困ったジョーは視線をそらしながらクリスに言った。
「わかったから! わかったからとにかく座って!」
 そしておとなしく元の席に戻ったクリスにジョーは言った。
「言いたい事はわかったけど、だけど普通ああいうのって自分で考えるもんじゃなくて周りの人間が言いだして、それが世の中に広まっていくものじゃないかと思うんだけど」
 するとクリスは不敵な笑みを浮かべるとチッチッチッと人差し指を立てて左右に振った。
「甘いわね。そんな受身じゃいつまでたっても有名な一流の冒険者になんてなれないわよ。いい? こういうのはもっと攻めの姿勢でいかないとダメなのよ。自分で通り名を広めるか、それか、通り名をつけられやすい属性を身につけるとかしないと」
「つけられやすい属性?」
「そうよ。あたしの分析によると通り名の付けられ方ってのはいくつかのパターンがあるわ。まず一つはさっきジョーが言った『龍殺し』とか『国崩し』とかみたいなやった事に対して付けられるパターンね。次ぎに『剣王』とか『死神』みたいな全体的なイメージから付けられるパターン。それで最後は『蒼騎士』とか『人形遣い』みたいな見た目そのまんまなパターン。有名な通り名はだいたいはこの三つのパターンのどれかに当てはまるわね」
「なるほどねえ」
 ジョーが適当な相槌を打つとクリスは得意げに言った。
「で、あたし達なんだけど前の二つのパターンは難しそうだから最後の見た目重視なパターンが狙い目だと思うのよ。どう?」
「どうって言われてもね……それで具体的にはどうするつもり? ずっと剣士でやってきたんだし、今更別の武器に変えるっていうのは無しだよ」
「別に武器を変える必要なんてないわよ。要は見た目で他の冒険者に差を付ければいいだけの話なんだから。で、どういう通り名がかっこいいか考えて、それに合わせた格好をすればいいだけなんだから。簡単な話でしょ」   
「う〜ん、簡単――なのか? それでクリスはどういう通り名にしようと思ってんの?」
「そうね。例えば『舞姫』なんてのはどう? 踊り娘みたいな格好して冒険したら話題になるんじゃない?」
「そりゃあんたはそれでいいかもしれないけどね。仮装行列がしたいのなら一人でやってよ」
 ジョーが呆れ顔で言うと、クリスはあからさまに不満気に唇を尖らせた。
「え〜、ジョーも一緒にやろうよ。絶対話題になるって!」
「そんな色物で話題になんかなりたくないよ……ん?」
「どうしたの?」
 ジョーの視線が自分の背後に向いたのを見たクリスは身をよじって後ろを見た。するとそこにはまだ少年と言ってもいい年頃の冒険者風の青年が二人所在なさげに立っていた。まだ装備が真新しく鎧に着られているような印象なので恐らく駆け出しのひよっこといったところなのだろう。
「何かあたし達に用かしら。坊や達」
 クリスが声をかけると青年達は体をこわばらさせ、目に見えて緊張した様子で互いに「お前言えよ」と小声で相談し始めた。
「――用が無いならよそに行きなさい。そんな所に立ってられたら食事がまずくなるわ」
「まあまあ、そんなに邪険にしてやるなよ。君達も別にとって食われるわけじゃないんだからそんなに遠慮することはないよ」
 ジョーがとりなしてやると、ようやく青年の一人が一歩前に進み出て口を開いた。
「あ、あの、はじめまして。僕はセルゲイ・オーランドと言います。それでこっちのがミック・タナ―です。僕達、先月から冒険者になった所なんですけど、皆さんにお願いしたいことがあるんです」
「へえ、何?」
「実はちょっとおいしいクエストの情報を手に入れたんですけど、僕達の力だけじゃ手が出せそうにないんで、僕達とパーティーを組んで欲しいんです。この辺りで若手ナンバー1と評判のお二人と見こんでお願いします!」
「若手ナンバー1ね。ちょっとうれしいけど、誰かと勘違いしてるんじゃない?」
 クリスが軽く笑って言うと、セルゲイは鼻息も荒くやや興奮気味に言った。
「そんなことないですよ! お二人の名前はここいらじゃ有名ですから。ジョゼフィン・『黒姫』・カーターさんとクリストファー・『おかま剣士』・ブライトさんを他の人と間違えるなんてありえませんよ!」 

<終>

あとがき

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