「贈り物騒動」

「おや、皆さん久しぶりだねえ」
 その日パステル達がみすず旅館に着くと、いつものようにおかみさんが笑顔で出迎えてくれた。
「またしばらくごやっかいになります」
 パーティを代表してクレイが挨拶する。
「やだねぇ、そんなにかしこまらなくてもうちみたいなボロ宿でよかったらいつでも大歓迎だよ。あ、そうそう忘れるところだった」
 気さくに答えたおかみさんは突然奥に引っ込んだかと思うとなにやら包みを二つ持って戻ってきた。
「パステルさんとキットンさんあてに届け物を預かってたんだよ」
「キットン、おめーまた通販頼んだのか?」
 トラップが尋ねる。
「いいえぇ、最近は注文した覚えはないんですがねぇ」
 キットンは不思議そうな表情で包みを受け取った。
 ここで断っておくがキットンあてに郵便がくるのは非常に珍しいことなのだ。
 少し考えれば分かることだが、少し前まで記憶喪失だったキットンには昔の知り合いはいないし、冒険で知り合った人々からの手紙はたいていパーティ全員に宛てたものである。そして唯一の個人的関係者であるゼンばあさんは直接訳の分からない『念』を送ってくるのでキットンあての郵便は通販と決まっていたのだ、少なくとも今までは。
「それで一体誰からなんだよ、それ」
 トラップが皆を代表して疑問を口にする。
「え〜と、ちょっと待ってくださいよ――――おおっ、これは!」
 包みを裏返して送り主の名前に目をやったとたんキットンは突然大声をあげた。
「で、結局誰からなんだ?」
「こ、これはひょっとして――――」
 キットンはトラップの質問など耳に入らない様子で包みを乱暴に破りだした。
 中から出てきたのは一冊の本と一枚の紙切れ。
「何だこりゃ」
 出てきた本を一心不乱にめくっているキットンを尻目にトラップは紙に書いてある文章を読み上げた。
「なになに"今回当図鑑は貴方の報告されたモンスターを採用することを決定いたしました。つきましては御礼として『モンスターポケットミニ図鑑 最新版』を同封しました。今後とも新種のモンスターを発見なさった際は当方へご連絡よろしくお願いいたします。モンスターポケットミニ図鑑編集部"?」
 トラップが読み終わると同時にキットンが本を広げて突き出した。
「み、皆さん見てください。私の発見したモンスターが載っています!!」
 広げられたページには確かに例の"キットン族の試練"の時の「目玉お化け」と「飛ぶエイ」(図鑑ではちゃんとした名前が付けられていた)がしっかりと掲載されていた。
「すごいじゃないかキットン」
「へ〜、ホントに載ってんだな」
「キットンしゃんすごいデシ」
「ルーミィおなかぺっこぺこだおう」
「いや〜、これも皆さんのおかげですよ」
 約一名全く事態を理解していないが、皆の賞賛にキットンは照れて頭をかきむしった。ちなみにノルの声が無いのはノルが納屋に自分の荷物を置きに行っているからで、特に深い意味はない。
「でもよ〜、どうせ御礼をくれるんなら現金にしてくれりゃいいのにシケてやがんなぁ」
 トラップは紙をピラピラ振って憎まれ口をたたいた。
 するとキットンが顔を紅潮させてトラップに詰め寄った。
「何を言ってるんですかトラップさん!!この本に採用されるというのはとても名誉なことなんですよ!いいですか、これからの冒険者はこのモンスターに遭遇するたびに私の報告を参考にするんですよ。私は第一発見者として歴史に名前を残したんです。この名誉はお金では買えないんですよ!」
「わ、わ〜ったよ。そんなにムキになることねえじゃねえか。それよりパステル、おめ〜さっきから一言もしゃべってねぇけどどうしたんだよ」
 あまりのキットンの剣幕にトラップは苦し紛れに話題を変えた。
「え、な、何?」
 自分あての荷物を呆然と見ていたパステルはトラップの一言で我に返った。
「何ってお前……」
「あ、そうそう、キットンすごいっっ!おめでとうっ!キットン最高っ!!」
 パステルはすばやく荷物を背後に隠すと引きつった笑みを浮かべてお祝いの言葉をまくし立てた。全然心がこもっていない上に妙にハイテンションなので不自然極まりない。
「な〜んか妙だな。パステル、お前何か隠してないか」
「な、何も隠してなんかないよ。気のせいだって」
 トラップの質問を否定してはいるが、ハタから見ていると動揺しまくっているので肯定しているも同然だ。
「――確か、お前にも荷物が届いていたよな」
 ギクリ。パステルが一瞬硬直したのをトラップは見逃さなかった。
「なるほど、その背中に隠した荷物に秘密があるって訳だ」
 トラップはニヤニヤ笑って言った。人の弱みを追求するのが楽しくてしょうがないらしい。
「だ、だったらどうだっていうのよ」
 その言葉が荷物に秘密があるということを肯定することになることにも気づかずにパステルは思わず言い返していた。
「よーし、誰から届いたか当ててやろうじゃねえか」
 トラップはそう言うと目を閉じ、指を額に当てて考えるポーズをとった。そして突然カッと目を見開くとパステルを指差して言った。
「ズバリ、ギアからだろっっ!!」
「違う」
 あっさり否定するパステル。
「じゃあ、ジュン・ケイ」
「違います」
 即答である。
「――意表をついて、プロポーズしてきた半魚人っっ!」
「違うってば!いいかげんにしてよ」
「じゃあ誰からのなんだよ」
 パステルがいらだった調子で否定するとトラップは軽く問い返した。
「そ、それは・・・・・・」
 一瞬言葉につまったパステルだったがすぐに態勢を立て直す。
「そ、そんなの私の勝手でしょ!女の子には人に知られたくない秘密ってモノがあるのよ」
 その言葉を聞くと、トラップはやれやれといった調子で軽く首を左右に振って言った。
「――こうなりゃ盗賊の誇りにかけて実力で見るしかねぇようだな。いくぜっ!」
 何も誇りをかけなくてもよさそうなものだがトラップはパステルの荷物めがけて飛びかかる。しかしそれを予期していたパステルはすばやく身をよじってそれをかわした。
「見せろっっ!」
「絶対ダメっっ!」
 狭い宿の中で追いかけっこが始まったが、すぐにパステルは隅に追い詰められてしまった。
「へっへっへっ、もう逃げられないぜ、観念しな」
 まるっきり安物の悪役である。
「もうやめろよ、トラップ」
 トラップがパステルから無理やり荷物を取ろうとした時、クレイが止めに入った。
「人の嫌がってることをするのは良くないよ」
「クレイ・・・・・・」
 と、パステルが緊張を解いた瞬間、クレイはひょいと荷物を取り上げた。
「えっ!?」
「――でも、パーティ内で隠し事っていうのも良くないよな。トラップ、パス」
 あっけに取られているパステルを横にクレイは荷物をトラップに投げた。
「ナ〜イス、クレイちゃん、気がきくねぇ。え〜っと、送り主はっと」
 そういえばこの二人は幼馴染のコンビだったんだ! その事実にパステルがあらためて気づいた時には既に遅く、トラップが荷物に貼り付けられた荷票を読み上げようとしていた。
「あ〜、ダメ〜」
 そして、必死に止めようとするパステルの努力もむなしく送り主の名が告げられた。
「――『モンスターポケットミニ図鑑編集部』?」
 がっくりと膝から崩れ落ちるパステル。だが事情のわからないクレイとトラップはお互いに顔を見合わせるだけだ。
「なあパステル、開けてみてもいいか」
 恐る恐るクレイが尋ねるとパステルは力なくうなずいた。
 中から出てきたのは一冊の本と一枚の紙。
 紙に書いてある文章をトラップが読み上げる。
「"今回当図鑑は貴方の報告されたモンスターを採用することを決定いたしました。つきましては御礼として『モンスターポケットミニ図鑑 最新版』を同封しました。今後とも新種のモンスターを発見なさった際は当方へご連絡よろしくお願いいたします。モンスターポケットミニ図鑑編集部"って、これってキットンに来たのと同じじゃねぇか!!」
 トラップは驚きの声をあげ、次の瞬間みけんにしわを寄せて考え込んだ。
「あれ、でもパステルは何を発見したっていうんだ?」
「あ、それは二つ報告したモンスターの内の一つでキットンが採用されてもう片方でパステルが採用されたっていう事なんじゃないか」
 クレイは一人で納得するとパステルの肩に手を置いて明るく語りかけた。
「でもどうしてあんなに必死に隠そうとしたんだ?別に片方をパステルが報告したって知ってもキットンは怒らないと思うよ」
 それに対してパステルは力なく笑った。
「あはは、でもそ〜いうんじゃないんだよね……」
 その時、今までの騒ぎを無視して図鑑を見ていたキットンとルーミィ、シロの一団が突然大声をあげた。
「あああああ、これは〜〜」
「キットンだお〜」
「キットンしゃんデシ」
 その声にピクッと身を震わせるパステル。それを見たクレイとトラップは何とも言えない表情で再び顔を見合わせた。
「まさか、な・・・・・・」
「まさか、だよな・・・・・・」
 訪れた気まずい沈黙は図鑑を手にしたキットンによってけたたましくぶち破られた。
「み、皆さんこれを見て下さい!!」
 キットンが示したページにはどう見てもキットンそのもののイラストの下に以下のような文章が記されていた。
『キットン族
 小柄でずんぐりした体型にボサボサの髪の一見ドワーフに似たヒューマノイド。
 四十歳ぐらいまでは人間が二歳年を取る間に一歳しか年を取らないが、その後は人間並みのスピードで年を取る。
 多産系の種族で家族、一族の団結力が強く、植物の栽培や薬・香りの調合が得意。
 また、独特の「キットン魔法」という魔法を使うことができる。
 彼らには一族の一員として認められるための儀式がある。それは途中で失敗したものは全て記憶を消されてゼロからやり直させるという厳しいもので、失敗を繰り返して経験をつんで強い精神力が得られると信じられている。
 残念なことに彼らは他の種族によって国を追われ、絶滅の危機に瀕している。
 ちなみに彼らには入浴の習慣が無いので知り合いにキットン族がいる場合は臭ってくる前に無理にでも風呂に入れた方が良いだろう』
「こ、これはいくらなんでもまずいんじゃないかな」
 クレイが弱りきった顔でつぶやく。
「仲間を『発見』するのはないよな〜。なあ、パ・ス・テ・ル」
 ニヤニヤしながらトラップが一文字ずつアクセントをつけて呼びかける。
「な、何のことだかさっぱりわかんないな〜」
 今更しらばっくれるパステルだがもはや手遅れである。
「え、これはパステルさんが書いたんですか?」
「ピンポ〜ン、大正解〜」
 けげんそうに尋ねるキットンにトラップは陽気に答えた。明らかにこの状況を楽しんでいる。
「パ〜ス〜テ〜ル〜さ〜ん〜」
 トラップの答えを聞いたキットンはパステルの方へゆらゆらとゆっくり近づいていく。
「ひああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。『報告者には御礼を差し上げます』っていうのにつられてつい出来心で〜」
 パステルは目をつぶって叫びながらキットンを近づけまいと手を体の前で振り回した。
 そして近づいてきたキットンはパステルの手をガシッと受け止めるとしっかり両手で握り締めて大声で叫んだ。
「ありがとうございます!」
「・・・・・・へ?」
 思わず間抜けな声を出したパステルが涙目でキットンを見ると、キットンはこれ以上はないほどの満面の笑みを浮かべていた。
「いや〜、キットン族が図鑑に載っていないのには気づきませんでした。これでキットン族もメジャーになるってものですよ、あっはっはっ」
 馬鹿笑いをするキットンにあっけにとられたトラップが尋ねる。
「あっはっはって、おめーそれでいいのかよ」
「は?何がです」
「何がって『発見』されたんだぞ、怒んねぇのか」
 キットンは心底不思議だといった調子で言った。
「ですから何で私が怒るのかわからないんですがねぇ。いやぁ本当にパステルさんありがとうございます」
「ど、どういたしまして」
 予想外の展開にパステルは返事をするので精一杯だ。
 キットンはそんなパステルの様子に全く気づかずに一人でべらべらしゃべり続けた。
「そうだ、余った図鑑は売り払ってそのお金でお祝いのパーティをやりましょう。図鑑は買うとけっこうしますからそれぐらいのお金にはなるでしょうからねえ。それじゃさっそく猪鹿亭に行って予約をしてきますね」
 言いたいことをしゃべり終えたキットンはさっさと宿を出て行ってしまった。それと入れ替わりに納屋に自分の荷物を置きにいっていたノルが宿に入ってきた。
「キットンが走っていくのを見たけど、どうしたんだ」
 ノルの質問にトラップはうんざりした調子で言った。
「誰か今までのこと説明する元気のある奴いるか」
 黙ってゆっくりと頭を左右に振るクレイとパステル。
 それを見たトラップは大きくため息をつくと投げやりな調子で言った。
「お祝いのパーティをやるんだとよ」
「そうか」
 何の説明にもなっていないがそれでもうなずくノル。
「よ〜し、みんなで猪鹿亭にパーティしに行くか」
 クレイは無理やりテンションを上げて宣言し、外に出て行った。
「ルーミィ、パーティ大好きだお」
「ぼくもデシ」
「うん、行こう」
「しゃ〜ねぇパーっとやるか」
 クレイに続いて他のメンバーも続々と宿を出る。
「なんだか知らないけど――」
 一人取り残されたパステルはつぶやいた。
「――結果オーライ?」
「お〜い、何やってんだ。置いてくぞ〜」
 外からトラップの呼び声が聞こえてくる。
「待って、今行く〜」
 そしてパステルはいつものように明るく返事をして仲間のもとへ向かうのであった。

 [THE END]

あとがき

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