「天国への階段」

 『この先の二つの階段は一つは天国に、一つは地獄につながっています。どちらの階段を進むかはご自由に選んでいただいて結構です。どちらの階段がどちらにつながっているかは二人いる係員のどちらかにお尋ね下さい。ただし、事務の合理化のため、ご質問はお一人様一回のみとさせていただいております。また、ご質問は「はい」か「いいえ」で答えられる質問のみ承っております。ご了承下さい。なお、係員は天国から派遣されている者と地獄から派遣されいる者がおり、天国の係員は常に本当の事を申し上げ、地獄の係員は常に嘘を申し上げますのでご注意下さい』
  
「……おい」
 しばらくの間黙って立て札を読んでいた男は受付のカウンターに座っているにこやかな営業スマイルを浮かべた「案内係」という腕章をつけた天使に話しかけた。
「はい、いらっしゃいませ。 ご質問はお決まりになられましたか?」
「ちょっとコレ、どういうことだよ」
 男は不機嫌そうに眉根を寄せて立て札を指差した。話しかけられた天使はあいまいな笑みのまま答えた。
「どう、と申されましても――ご覧の通りでございますが」
「いや、だからおかしいだろ、こんなの! 天国に行くか地獄に行くかを決めるのは生前の行いだろ、普通!! こんなクイズみたいなので決められたんじゃ、俺みたいな真っ正直に生きてきた人間が馬鹿みたいじゃないか!」
 声を荒げて怒る男の様子を見て、もう一人の天使はカウンターを回って男のそばに立った。受付に座っている天使と瓜二つ、というかまるっきり同じ外見だ。誠意の感じられない営業スマイルも同じその天使は言った。
「まあまあ、落ちついてくださいよ。そうはおっしゃいますが、正直に生きるっていうのは天国に行くためっていう見返りを期待してするものじゃないでしょ。もしそういう見返りを期待してたんならそんなのは善行としてはカウントされませんし、そんな『馬鹿みたい』ということもないと思いますよ」
「それはそうかもしれないけど……やっぱり納得できん! 見返りを期待してたかどうかはともかくとして善行をつんできた人間と悪の限りをつくした人間が同じ立場になるっていうのはおかしいだろ! なあ、あんただって本当はおかしいと思ってるんじゃないのか?」
 二人目の天使は営業スマイルを少し困ったようなぎこちない笑みに変えて頭をかいた。
「はい、そうですね。正直ちょっと私もどうかとは思わないでもないんですが……全てにおいて平等にっていうのが上の方針として決まっちゃってるんですよ。ですから、どうかご理解いただけませんか」
「人が天国に行くか地獄に行くかの重大な違いだぞ! そんな簡単に納得できるわけないだろ! いいよもう、あんたじゃ話にならないから。責任者呼んでくれよ、責任者!」
「ちょっと困ります、お客様!」
「いいから責任者出せ! 責任者!!」
 今にも暴れだしそうな男をもう一人がなだめている間に、カウンターに座った天使は受話器をとってどこかに状況を報告した。するとカウンター横の部屋のドアが開き、体格のいい天使が姿を現した。腕に「警備」という腕章をつけたその天使は男の肩に手を置いて話しかけた。
「よう、元気だな。兄さん」
「だから責任者――!」
 振りかえった男は自分よりも頭一つ以上大きいその天使の迫力に息を飲んだ。そして本気をだしたら素手で猛獣でも殺せそうなその天使はのぞきこむようにして男に尋ねた。
「悪いけど、今はちょっと責任者はおらんのやわ。わしでよかったら話を聞くが、それでええか」
「あ、ああ……」
「せやったらこんなとこで立ち話もなんやし、奥でゆっくり話聞こか」
 すっかり雰囲気にのまれた男は三人目の天使に肩をだかれ、言いなりに天使の出てきたドアの中へと連れ込まれていった。
 しばらく時間が経ち、5人ほど死者の魂が階段へ案内された時、再びドアが開いて先程の男と天使が出てきた。
「どうも、お世話になりました」
「あ〜、ええってええって。ほな兄さん、気ぃつけてな」
 頭を下げて礼を言う男に天使は軽く手を振って、それからカウンターに座っている二人の天使に声をかけた。
「兄さん納得してくれたみたいやから。あとはよろしくな」
「はい、どうもありがとうございました」
 警備の天使は気にするなとこちらにも軽く手を振ってドアを閉めた。そして残された男はカウンターの前まで来ると、カウンターに座った天使に話しかけた。
「本当のところを言うと、まだ完全に納得したわけじゃないが、今回はこれでいいことにするよ。ま、どう質問すればいいかはわかってるし。それじゃあ質問するぞ、『もしもあなたに――」
「あ、ちょっと待って下さい」
 男の言葉を遮って天使の一人はにこやかな営業スマイルで言った。
「あなた様のご質問は『今のシステムについておかしいと思うか』というご質問で受け付けは終了しておりますので追加のご質問はお受けできません。それではお進みになる階段をお選び下さいませ」


<THE END>

あとがき

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