その後、私は男の勧めで男の家に行くことになった。私としては他に行く当てがあるわけでもなく、世話になりついでに家に泊めてもらう事にしたのだ。
薄暗い森を私は赤タイツの男と並んで歩いた。男の頭は既に口の周囲と左眼の部分をわずかに残すのみである。つまり男の頭の4分の3は私の胃袋の中というわけだ。
私達は歩きながらいろいろな話をした。特に私が旅の途中で見聞きしたことには興味を持ったらしかった、彼の話によれば彼はこの辺りから外へは行ったことがないのだそうだった。
私は彼が何者なのか気になったのでそのことについて尋ねてみたが彼は笑って「正義の味方だよ」とはぐらかすだけだった。
やがて日が山の端に差し掛かる頃、目の前の森が突然開けた。そこはちょっとした広場になっていて小さな家がぽつんと一軒たっていた。
「さあ、つきましたよ」
男は4分の1の顔で私に笑いかけた。そして私は男と共にその家に近づいて行ったのだが、近づくと共にその家から何かとても良いニオイがすることに気が付いた。
「おじさん、ただいま〜」
男は玄関の扉を開けると中に向かって呼びかけた。
「ああ、おかえり」
すると、家の奥から返事と共に小柄な老人が現われた。老人は料理人のような白衣に身を包みコック帽から白髪を覗かせていたが、私は老人が手にもっているモノを見て度肝を抜かれた。
それはなんと―――私が食べてしまったはずの男の生首だったのだ。満面の笑みを浮かべているところなど私が食べる前の男の頭と寸分たがうところが無い。
「ちょうど新しい頭が出来上がったところだよ」
老人は男の頭が欠けているのを見ても動じることなく男に自分の持っている生首を手渡した。
「おじさん、いつもありがとうございます」
男は生首を受け取ると残っていた自分の頭を無造作にもぎ取ると、受け取った首を頭のあるべき場所にはめこんだ。
「やっぱり新しい頭だと気分がいいですねぇ」
男はさわやかに言うと元頭であった肉片を床に放った。するとどこからともなく現われた犬がその肉片にかぶりついた。なんだか人の死体が犬に食い散らかされているようで見ていて気持ちのいいものではなかったが、男と老人はそれを微笑ましそうに見ていた。
「頭が取り替えられるって本当だったんですね」
私は思わずあきれ半分に言ってしまった。
しかし男はまったく気を悪くする様子もなく、にこやかな笑みを私に向けた。
「ええ、最近は毎日新しい頭にしないと調子が悪いくらいですよ」
その後私は“おじさん”の許可を得てその家に一晩泊めてもらい、翌朝男の案内で森を抜けて再び旅を続けることにした。おみやげにもらった食べ物が男の生首だったのには正直驚いたが、見た目にさえ慣れてしまえばそのおいしさに感謝の念さえ覚えた。
―――というわけなんですよ。だから私が頭を食べた女達も新しい頭をくっつければまた元通りになるんです。どうしてみなさんは私のことをセイシンイジョウだとかサツジンキだとか言うんでしょうね。心外ですよ、まったく。ところで何時になったら私はここから出してもらえるんですか?私、鉄格子のある窓はあんまりすきじゃないんですけど―――ねえ、弁護士の先生、聞いてます?
<FIN>
あとがき
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