「怪奇アンパン男」
「ボクの頭を食べなよ」
その時私はいったい何を言われたのか理解できなかった。
私は旅の途中で路銀が絶えて食べる物がなくなってしまい、ついに力尽きて倒れこんでしまったのだった。
そして誰かに肩をゆすられ目を覚ましたら―――いきなりこの台詞だ。
「ボクの頭を食べなよ」
目の前の赤タイツの男は繰り返した。
「―――何を・・・言ってるんですか・・・」
私は気力を振り絞って男に言った。
「お腹すいてるんだろ?」
男は満面の笑みを浮かべて言った。
「―――すいてますけど・・・」
「うんうん、だからボクの頭を食べなよ」
なぜそうなるのか。頭を食べるなんて悪い冗談に付き合う余裕は私にはない。自然と私の語気は荒くなっていった。
「嫌がらせなら止めてください。嫌がらせじゃないのなら何か食べ物をくれませんか」
「だからボクの頭を食べればいいじゃないか」
「あなたいい加減に―――」
ついに私の堪忍袋の緒が切れたとき、私の目に信じられない光景が飛び込んできた。
男はおもむろに自分の頭部をつかむと―――あろうことかそのまま頭の一部をむしり取ってしまったのだ。
「ヒイッ」
情けない話だが私は思わず悲鳴をあげてしまった。いや、誰だって目の前でこんな光景を見せられては平気でいられまい。
なにより恐ろしいのは男が満面の笑みを浮かべ、私に頭の一部だった肉片を差し出していることだ。頭の断面からは黒っぽい内容物がのぞいているというのにである。
「どうしたんだい?早く食べなよ」
食べられるわけが無い。私は必死でかぶりを振った。
「あ、ひょっとして遠慮してるのかい?大丈夫、遠慮せずに食べなよ」
そういうことではない。だが、私はその台詞で断る口実を思いついた。少なくともその時点では断れると思ったのだ。
「わ、私があなたの頭を食べてしまったらあなたの頭がなくなってしまうじゃないですか」
「大丈夫、頭は取り替えられるんですよ。さ、どうぞ」
男はとんでもないことをさらりと言い、なおも私に肉片を手渡そうとしてきた。
「あああああ、私、祖父の遺言で頭だけは食べるなって言われてるんですぅ」
もう自分でも何を言っているのかよくわからない。
「嘘をついちゃいけませんよ。それにこのままじゃ死んでしまいます。おとなしくボクの頭を食べてください」
そしてついに男は強引に私の口に自分の肉片を詰め込んできた。
「ムグググゥッッ」
私の口中になんとも言えない味が広がっていく。そしてそれは―――ひどく甘美な味だったのだ。
肉片を飲み込んだ後に自分の言った言葉は自分でも信じられないものだった。
「あの、もっといただけませんか―――頭」
むろん男は満面の笑みを浮かべたまま次なる肉片を自分の頭からむしり取ったのであった。