「噂」
「なあなあ、聞いた? あの噂」
「何だよ、あの噂って」
「ああ、アレだよ。ついにあの人が20年来の悲願を果たしたって話」
「あ、その話ね。聞いた聞いた。すげぇよなあ、20年だもんな」
「そうそう、20年つったらまだ俺達が生まれてない頃だぜ。そんな昔から一つの事に挑戦しつづけるなんて信じられねえよ」
「ホント、すごすぎ。『プロジェクトX』で森本レオにナレーションしてもらいたいぐらいだな」
「あ、それいいそれいい! かぁぜのなかのすぅばる〜♪ってやつ(笑)」
「でも俺思うんだけど、あの番組に出てくるような人達って尊敬するけど、ああなりたいとは思わんよなあ」
「言えてる。ちょっとあ〜ゆ〜生き方はシンドイよな」
「ま、とりあえず結論としてはあの人は偉いってことで」
「え、何その結論(笑)」
「いや、他に言う事ないじゃん(笑)」
「そりゃまあそうなんだけど(笑)」
「でしょ(笑)」
「(笑) そうそう、結論が出たところで一つ聞きたいことがあるんだけど」
「ん、何? 何でも聞いてくれたまい」
「この噂の『あの人』って結局誰なんだ?」
「……今まで知らないで話してたのか?」
「しゃあないじゃん、俺が聞いたのは『あの人がついにやった』ってことだけなんだから。それで『あの人』はどこの誰で何をやったんだ? すっげぇ気になるんだけど」
「――なるほど、事情はわかった。つーか、ぶっちゃけ、俺も『あの人』が誰なのか知らんし、何をしたのかも知らん」
「なんだよ、お前も知らないのかよ。使えないな」
「使えないゆーな。お前も同じようなもんじゃねえか」
「ま、それはそれ、これはこれだ。しかし、マジ言って誰なんだろうな、『あの人』って」
「そうだな――誰なんだろうな。俺達の知ってる人なのかな」
「う〜ん、心当たりはまったく思い浮かばんしな……」
「――あ」
「お、何? 何か思いだした?」
「いや、そうじゃないんだけどな。ここで俺達が知恵を絞りあったって結論は出ないだろ、正解がわからないんだし。それより、俺達が噂を聞いた人に『あの人』が誰かを聞けばいいんだよ。最悪そいつが知らなくてもそいつが噂を聞いた人に尋ねるって具合に順番にたどっていけば『あの人』が誰かわかるんじゃねえか?」
「お、冴えてるね。それいってみよう! え〜っと、俺は誰から聞いたんだっけな……」
「どうだ? 誰から聞いたか思いだしたか?」
「……スマン、思い出せん」
「何だ、お前もか。実は俺もさっきから考えてるんだが、さっぱり思いだせないんだ」
「いきなり暗礁に乗り上げたな……それより、思ったんだが、俺はいったいいつからこの噂を知ってるんだ? 俺は誰からも聞いた覚えは無い――なのにどうして俺はこの噂を知っているんだ?」
「な、なんだよ、気味の悪い事言うなよ」
「だったらお前はわかるのか? 自分がいつからこの噂を知っているのか」
「……わからん。何でだ? 何で自分の事なのにわからないんだ?」
「ちょっと待て、そもそもさっきから会話してるけど、お前は誰なんだ?」
「え、俺? 俺は――ダメだ。わからない。お前はどうだ?」
「俺は、俺は、俺は――誰だ? いや、それよりここはどこなんだ?」
「どこって――そういえばここはどこなんだ? 俺達以外は存在しないのか?」
「俺は――俺達は、いったい何なんだ?」
「センセー、また1号と2号がアイデンティティ・クライシスになっちゃってますよ〜」
「なんだ、またなのか? ん〜、何がいかんのだろうなあ。君、すまんがβ変数の値を2倍にして最初からやり直してくれんか」
「β変数を2倍ですね。わっかりました〜」
苦節20年、ついに人工知能同士の会話による学習アルゴリズムを開発したN博士であったが、未だ実用化の目処はたっていない。
<終>
あとがき
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