「天下り」

「はあ、まったくやってらんねぇよな」
「そうだよなぁ。真面目に仕事してんのが馬鹿らしくなってくるぜ」
 休憩時間だろうか、二人の男達が並んで座ってグチを言い合っている。どちらも憤懣やるかたないといった様子だ。
「だいたい、昨日今日来た奴がいきなりトップになるなんて納得できねぇよ」
「そうそう、俺達『現場』が百年働いても立てない地位にいきなりだもんなぁ」
 どうやら彼らは組織の人事が気に入らないらしい。彼らが出世に縁が無い原因が彼ら自身にあるのかないのかは定かではないが、長年勤務してきた自分よりも、突然やってきた新参者がはるかに上の地位になってしまうのではグチの一つも言いたくなるのもうなずける。
「――そういや、お前知ってるか?」
 男の一方が突然切り出した。
「?」
「これはあくまで噂なんだけどよ」 
 と、男は声を低めて、
「なんでもあいつ、前いたところで権力争いに負けてこっちに厄介払いされたらしいぜ」
「マジかよ」
「ああ、自分がトップになろうとして今のトップに逆らったらしいんだ――いわゆるクーデターって奴だな。で、失敗してこっちへ島流しってワケだ」
「へえ〜、そんな事情があったのか」
 もう一方の男はしきりに感心している。
「どうだ、面白れえ話だろ。あいつ、偉そうな顔して、実は調子に乗って失敗したんだぜ」
 男はうれしそうに言った。しかし、その笑顔はもう一方の男の一言で凍りついた。
「でもよ〜。そんな奴でも俺達よりははるかに偉いんだよな」
「――そうなんだよなあ」
 話が元に戻ってしまい、二人はため息などついて落ち込んでしまった。
「――畜生!! 飛ばされてくるような無能な奴がなんで俺達より偉いんだよ!!」
 男が沈んだ空気を吹き飛ばすように怒鳴る。
「そうだ、そうだ!! 納得いかねえぞ!!」
 もう一方の男も調子を合わせて怒鳴る。
 ひとしきり不満を怒鳴りあった後、男達はがっしりと固く握手した。
「俺の気持ちがわかるのはお前だけだぜ」
「おうよ、ブラザー」
 二人が暑苦しい男の友情に目をウルウルさせていると、二人の背後から突然声がかけられた。
「ずいぶん面白そうな話をしてますね。私も仲間に入れてもらえませんか?」
「おお、あんたも同志か?」
 振り返った男は声の主を見て絶句した。
「――いったい、誰が『無能』なんですか。じっくり聞かせてもらいたいものですね」
 そこにいたのはまぎれもなく先程から話題にしていた新しいトップであった。
「いや、あの、その、そうじゃないんです」
「そ、そうそう、違うんです」
 男達は必死で取り繕おうとする。が、新しいトップは冷ややかな微笑を浮かべるだけだった。
「何が違うというんです? 私はまだ何も言っていませんよ。あなた達が何の話をしていたかも知りませんし」
 むろん、あれだけ大声で怒鳴っていたのに話が聞かれていないはずがない。ネチネチと皮肉っているのだ。
 男は恐る恐る尋ねてみた。
「あの〜、やっぱり怒ってらっしゃいます?」
「だから、何を怒るというんですか」
 あくまでシラを切るつもりらしい。
 その様子を見た男達は顔を見合わせ、うなずき合うと新しいトップの前に土下座した。
『申し訳ありませんでした!! もう二度と悪口は言いませんからお許しください!!』
 二人の声を合わせた謝罪に、新しいトップはあくまで冷ややかに言った。
「君達はどうやら私のことが不満のようだが、別に無理して私の下で働かなくてもいいんだよ」
 その言葉に震え上がった男達はいっそう地面に頭をこすりつけた。
「めっそうもございません!! どうかこれからも働かせてください、ルシファー様!!」

<THE END>

あとがき

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