『すぎかえる』表紙美術館・作品展示室

ハミルトン亭の迷惑天使

武村 真

3 一難去って…

アリクイヒドラ騒ぎから2時間ほどが過ぎた。いつもは活気あるバザーも、さすがに人が少なくなっている。だから、土偶が売れないのも仕方のないことなのだろう。

今日がだめでも明日がある。明日がだめでも明後日がある。人が交わるこの通りに、人が減ることはあっても、人がいなくなることなどない。

だから、いつか売れるはずだ。諦めない限り。

「完…」

(終わってどーすんのよ)

相棒が呆れたように言ってくる。呆れているのだろうが。

「そうは言うがな、とんでもなく売れねえぞ」

(そりゃそうでしょうね)

さすがに、レシウスにも自分のミスがわかっていた。土偶が売れるはずはない。だが、店長の土偶は売れている。世の中は不思議だ。しかし、不思議で片づけてしまえばいい。自分には何一つ、落ち度はない事になるのだから。

しかし、レシウスにはそれができない。できないから、こんなところで今も土偶を売っている。

「まさか、この土偶、呪われてんじゃねーだろうな」

(根拠がないわよ)

「売るなという呪いだ」

(あのねえ…)

二人して溜息をついていると、ピオーネが歩いてきた。こちらにはまだ気づいていない。

ようやく警備隊の事情聴取から解放されたらしく、翼がしおれている。ちなみにレシウスはさっさと逃げたのだが。

「おーい!」

声をかけるが、気づいていない。そのまま、前を通りすぎようとしてくる。

「おいってよ!」

がしゃん!

投げつけた土偶が派手な音をたてて、割れる。ついでにピオーネの頭も割れたが、まあささいなことだろう。

「????」

あっさりと地面に倒れたピオーネはまったくびっくりした顔で、傷を治しながらこちらを向いてくる。そうして、自分の身に何が起こったか理解したようだ。

「なにをするんですか!」

当然だが、えらく怒ってくる。が、レシウスはかけらも気にせず、言い放った。

「いや、土偶をぶつけたんだが」

「ああ、それで頭が…ってそうじゃありません!どうしてぶつけるんですか!」

「あいさつがわり」

「……」

ピオーネは絶句した。そして、花をそこらへんに置いて、土偶を一つ拾う。

がしゃあああん!

そして、あっさりとレシウスの鼻先にぶつけてきた。レシウスは派手に地面に転がった。

「てめえええ!」

「あいさつ、です」

「やかましいっ!」

不当な抗議をしながら、レシウスがまた土偶を投げつける。そして、ピオーネの顎にぶちあたる。間髪入れず、ピオーネが反撃し…。

いつの間にやら、土偶投げ大会になっていた。

「おりゃああ!」

「守りよ」

レシウスの投げた土偶の一つが、ピオーネの結界に弾かれ、割れる。それ自体は特別なことではなかったのだが、土偶の中から液体が落ちた。そしてそれは、ピオーネが地面に置いておいた花にかかった。

じゅううう、と酸にも似た音をたて、煙が立ちこめる。

「なに?」

「まさか…」

ピオーネが自体を飲みこめずに眼をしばたかせる向かいで、レシウスは嫌な予感を感じていた。

そして、嫌な予感は当たるものだ。

しゃげええええ!

煙の中から、体長15メートルはある、巨大な花が姿を現した。

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