お見舞い
「ところで、結局どうして入院したんだ?」
一番気になっていたことを訊く。これを訊くために僕はここに来たようなものなのだ。教えてもらわないと来た意味がなくなってしまう。
「私も年だからさ、腰にきちゃったんだよね。ようするにぎっくり腰ってやつ」
冗談めかして彼女が言った。にわかには信じがたい話だったけど、僕に嘘をついたって何の得もないんだからたぶん本当なんだろう。ぎっくり腰なら僕の周りでもわりとよく聞くし、命がどうこうっていうんじゃないから安心できる。
「それよりおみやげないの? 期待してたんだけどな」
「お金に余裕がなかったから買ってない。ごめんよ」
「まぁ、しかたないか。私だってお金ないし。来てくれただけで良しとしないとね」
それから僕たちはたくさん話をした。高校時代の思い出について話たし、高校を卒業してからのことも話たし、彼女が現在通っている大学の話もした。時間がたつのも忘れてとても楽しい時を過ごした。彼女は僕の思い出の中の彼女とほとんど変わってなかった。それが何となく嬉しい。
「今、何時かわかる?」
言われて腕時計を見てみると、すでに三時を過ぎていた。そして、この部屋には時計すらないことに気づく。もうすぐ三時だよ、と教えてあげると彼女は嬉しそうな顔をした。
「もう少ししたら私の家族が見舞いに来てくれるの。毎日三時に来てくれるから」
そう言って笑顔を見せる彼女が僕には羨ましかった。僕の家族は一人暮らしの僕に会いに来ようなんて考えたこともないんじゃないだろうか。この年になって寂しいなんて言うわけじゃないが、たまには会いに来てくれてもいいような気もする。
コンコン、とノックの音がした。ゆっくりとドアが開いて三十代くらいの女性と幼い子供が入ってくる。女性は僕がいることに気がつくと、少し眉をひそめた。僕はイスから立ち上がり小さく礼をする。
「初めまして。徳永と申します。村上さんとは高校時代の同級生で」
「そうですか。わざわざ会いに来てくださってありがとうございます。村上瞳です。この子は娘の優です。ほら、ごあいさつして」
「はじめまして。むらかみゆうです。おばあちゃんのおみまいにきました」
子供らしいたどたどしい口調だった。僕はしゃがんで優ちゃんと同じ目線になる。
「初めまして。毎日お見舞いに来てるんだってね。偉いね」
ほめられたのがわかった優ちゃんは頬を赤らめて笑顔になった。その笑顔を見ると、僕も自分の孫に会いたくなってきた。もう何年も会っていないから僕がおじいちゃんだとはわからないかもしれないな。
「可愛いでしょ。私の子供の頃にそっくりだからね」
もしかしたら孫が見せたくて僕にお見舞いに来るようメールしてきたんだろうか。彼女ならありえない話じゃない。っていうかそっちのほうが正解だろう。実に彼女らしいワガママだ。でも、悪い気はしなかった。
「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。久しぶりに孫の顔が見たくなった」
「そう? また見舞いに来てね。いつでも歓迎だから」
「それより早く退院したほうがいいと思うけどね。それじゃあ、お邪魔しました」
「またお越しください。義母も喜びますので」
「おじいちゃん、バイバイ」
バイバイ、と優ちゃんに言って僕は病室を出た。心なしか廊下を歩く速度がいつもより速くなる。少しでも早く孫に会いたいという気持ちがそうさせるのだろう。
彼女に会いに来てやはり良かった。今度見舞いに来ることがあったら必ずおみやげを買ってくることにしよう、と心に誓い、僕は病院を後にした。