08年度 夏合宿報告書

【目的】 
1.雪上技術の習得、向上
2.バリエーションルート(岩稜)の経験
3.生活技術の習得

【場所】
北アルプス 剱岳周辺

【メンバー】
CL:岩澤(4)  SL:山川(4)  装備:近藤(M1)  奥山(2)  食糧:吉田(1)  食糧:石丸(1)
 ※奥山は8月17日に途中下山

【日程】
8月14日~19日

文責・岩沢貴士

8/13 晴れ ~アプローチ~

 真昼間の六甲道駅に、続々とバカでかいザックを背負った男たちが集まってくる。吉田のザックがやけに膨らんでおり、慣れないパッキングに苦戦した跡が見える。逆に石丸は、部では新人とはいえ、さすが登山歴7年目、コンパクトなザックだ。尾崎OBに見送られ、12:55発の電車に乗り、6人は旅立った。
 鈍行列車に揺られること6時間半。一行は、富山の地に降り立つ。駅前には、ここでビバーク予定とおぼしき登山者の姿がチラホラ見かけられる。我々は、腹ごしらえを済ませ、富山地鉄の終電に乗り込む。今夜のビバークポイントは、立山駅前だ。

8/14 雨 ~入山~
8:05室堂ターミナル~9:10雷鳥沢~11:05別山乗越~11:50剣沢雪渓~14:30真砂沢ロッジ(BC)

 立山黒部アルペンルートを経て、室堂ターミナルにやってきた。天気は雨が降ったり止んだりといったところだが、お盆なので、観光客でごった返している。カッパを着て水を汲み、いざ出陣。初っ端から、岩澤が逆に進もうとしてしまう。その後も、何度か道を間違えそうになる。遊歩道がありすぎて、かえって分かりづらい。ガスっていて、ろくに景色も見えない。
 1時間ほどで雷鳥沢に到る。雨が本降りになってきて、立ち止まると寒いが、ここで小休止する。そして長い雷鳥坂を、えっちらおっちらと登り始める。岩澤がバテている以外は、皆元気だ。雷鳥坂の途中で一度休憩してからは、「登山用語しりとり」などをしながら歩くが、なぜか不吉な単語が頻出する。雨はまた、降ったり止んだりの繰り返しとなる。
 別山乗越を、文字通り乗り越えて、そそくさと剣沢に向かって道を急ぐ。途中の剣沢キャンプ場の駐在所で、計画書を提出するのだが、岩澤は提出用に余分の計画書を持ってくるのを忘れていた。仕方なく、近藤が自分の計画書を提供する。駐在所の中では、テレビで北京五輪を観戦していた。
 雨に濡れながら、ヘルメットとピッケルを装備し、剣沢雪渓に降り立ち、真砂沢へと下っていく。下る途中で、新人を中心に山座同定。源次郎尾根の取り付き点なども確認する。雪渓の雪の量は、2年前、3年前よりもかなり多く、平蔵谷、長次郎谷ともに、クレバスは少ないようだ。
 真砂沢キャンプ場まであと1kmも無いかというところまできたところで、遥か後方、別山乗越のあたりから轟音が鳴り響く。雷だ。早くテン場に着こうと、歩みを早めるが、雷の音はどんどん近くなってくる。本当に怖い。背後に着々と雷が迫ってくるのが感じられる。もう我々の真上にまで迫ってきたというところで、無事に真砂沢に到着。しかし、ここにきて雨はついに本降りを超えて、バケツをひっくり返した様な土砂降りになる。ひとまず我々はトイレに避難させてもらう。テントの設営すら大変そうな大雨である。1時間ほど待機しただろうか。雨は止むことはないが、時々弱まる時間が数分ずつあるので、その隙をついてテントを設営する。結果として、ずぶ濡れのベースキャンプが完成した。これからの数日、ここが我々の家になるのだと思うと、先が思いやられる。慌ただしくテントの中に入ると、すでに低い側は浸水してきており、テント周辺に急ピッチで治水工事が施される。小屋で聞いた話によると、この雨によって、富山県には大雨警報が発令されており、黒部側のロープウェイが雷で停止したらしい。我々も、あと30分到着が遅れていたら、危なかったかもしれない。逆に、あと30分早く到着していたら、もう少し落ち着いて設営もできたかもしれない。(あくまで可能性だが)
 水浸しのテント内で、豪雨と雷の音をBGMに、6人は不快な一夜を過ごした。

8/15 雨 → 曇り時々雨 ~雪上訓練1~
5:45BC~6:15長次郎谷出~合7:10雪上訓練開始~11:50終了~13:30BC

 朝は4時起床の予定が、10分寝坊する。雨が降ったり止んだりしている。昨日の前半と変わらない天気だ。5時出発のつもりが、かなり時間がかかる。出発時には雨は和らいでいた。長次郎谷を登っていく。雨で雪渓がある程度緩んでいるので、キックステップは容易に利く。
 緩傾斜の上の急傾斜という、雪上訓練適地で、広い足場を切り、安全のためロープを張って訓練開始。まずは歩行訓練。ここに来るまで、すでにかなり歩いているのだが、改めて足の運びなどに注意しながら行ったり来たりする。その後は滑落停止。近藤はさすが5年目の貫禄といたところか、さすがに巧い。新人も、少しずつやり方をつかんできたようだ。奥山ら上回生は、様々な滑落のシチュエーションを想定して、横向きに倒れた姿勢から滑ったり、頭から滑ったり、助走をつけて(!?)滑ったりした。滑りまくりで体の節々が痛くなってきたところで、岩沢、山川を中心に、スタカットビレイの練習をして、この日のメニューの締めくくりとする。
 この日は、山頂からの下降路となる左又の偵察も行う。熊ノ岩より下から観察すると、例年より雪が多く、問題なさそう。また、左又よりクレバスの多い右又から普通に下降できたという情報を前日聞いていたこともあり、安心して下る。
 雪練の後半からは、雨の合間に太陽も見え隠れしており、BCの着いてからは、日差しは弱いものの、とりあえず濡れた装備を乾かすことができた。

8/16 雨 → 曇り時々雨 ~雪上訓練2~
5:30BC~6:30平蔵谷出合~少し平蔵谷を登る~7:30剣沢(平蔵谷出合より少し上)にて雪上訓練~13:40BC

 この日は本来、源次郎尾根縦走の予定で、朝は2時に起きる。しかし、その時点で外は土砂降りの雨。2時間待機とし、4時に起床。雨は多少弱まっているが、やはり源次郎に行けるコンディションではない。この日は雪上訓練とし、平蔵谷を目指す。平蔵谷出合で、奥山は近藤と共に、下山時のルートを偵察に行く。入山時はひどいガスで視界不良だったため、17日の一人下山時のルートファインディングに若干の不安があるためだ。岩沢、山川、吉田、石丸は、急傾斜の平蔵谷を登る。ある程度急傾斜地帯を抜けたところで、山川から、これ以上登っても、雪練適地は無いのではないかとの意見があり、引き返す。ここまでの登と下りだけでも、かなりの練習になるだろう。
 剣沢にて、適地を見つけ、雪上訓練。雨は完全に止み、雲の切れ間から時折太陽がのぞく。滑落停止の上達を目指して、滑る。みんなおなじ場所で滑るので、雪面がならされ、つるつるとよく滑る。30分ほどで、近藤、奥山も戻ってきて合流し、どんどん滑る。こうして練習していると、剣沢を下ってこちらに近寄ってくる一人の人影が、コールをかけてくる。なんと、3日前に六甲道で我々を見送ってくれた尾崎OBだ。参加できない予定だったが、急遽来られることになったらしい。奥山、吉田、石丸を中心としたスタカット練習につきあっていただく。
 なんだかんだでかなり消耗したので、正午ごろBCへ下る。BCで装備を干していると、急に雨が降り出し、干す前よりぬれた。夕食は、尾崎OBの差し入れのおかげでやや豪華になった。
 天気図をとると、低気圧&前線が・・・。しかし、小屋で聞いた天気予報では、「曇りのち晴れ」とのこと。どっちを信じるべきか迷いながらも、翌日の源次郎縦走を想定して早く眠る。

8/17 曇り時々雨 → 雨時々曇り ~源次郎尾根縦走~
3:55BC~4:45取付~9:10一峰~10:20二峰~12:30山頂~13:20長次郎の頭~14:30熊ノ岩~15:35BC

 2時起床。お湯かけごはんに、レトルトのニシンの姿煮をのせて胃にかき込む。まだ夜明け前、空には雲があり、真っ暗だが、取り付きで夜明けを迎える予定で、ヘッドランプをたよりに出発。時々雨がパラついてくるが、小屋の予報を信じる。奥山は尾崎OBとともに今日下山で、後から出発する。
 平蔵谷出合付近の、取り付きに着いたのはまだ夜があけきる前で、15分休憩して日が昇るのを待つ。尾崎OB,奥山が追いつく。吉田が休憩中にヘルメットを落とし、雪渓上を滑らすが、ほかのメンバーがキャッチしてことなきを得た。5時ちょうど、奥山らと別れて、取り付く。最初は低木に覆われた、ガレ気味の急登で、ぐんぐん高度を稼いでいく。しかし、連日の雨により、ルートには水が流れていて、さながら沢のツメのよう。すぐ2?3メートルほどの岩に行き当たり、山川がトップで突破し、ロープをフィックスする。2年前はロープなしで行けたが、今回は岩の表面を水が流れていて、難度が上がっている。
 その後は木の枝が絡み合う中を木登りのように登っていく。2カ所でロープを出した。いずれもトップはフリーで登り、フィックスして、セカンド以降はプルージックで登った。また、10分の休憩も途中に2回挟んでいる。だんだん木が低くなり、開けてくる。一峰までは意外と長いのだ。後続から来た3人パーティが、我々を追い越していく。ようやく・・・といった感じで一峰にたどり着き、小休止。ガスっていて景色はろくに見えないが、二峰への登りが見える。先ほどのパーティが登っているのが見える。ここから見ると、二峰の登りはかなり険しく、怖そうに見える。だが、実際取り付いてみると、適度に木の枝があり、あまり恐れるほどではない。だが、二峰まであと一歩という、最後のひと登りは、難度こそ高くないものの、かなりの高度感があり、怖い感じだ。巻き道を探すものの、かえって難しくなるようなところしかないので、なんとかロープを張りつつ乗り越え、二峰に到る。
 小休止した後、5分ほど歩くと30mの懸垂下降だ。ロープの回収などに手間取ることも無く、無事懸垂下降を終える。ここからはガレた道が続く。トップの岩澤がすぐにルートを間違えるので、その度山川が先頭になる。
 山頂までには、いくつかダミーのピークがあり、「もうすぐか?」「まだか?」の繰り返しといった感じ。ようやく剣岳山頂に着くが、寒いし濡れているし、景色は見えないしで、はやく下りたい。一応の記念撮影をして、下降路の長次郎のコルを目指す。一般縦走路でないことを示す×印が目印だ。山頂のお堂は新造されていたようだった。
 コルまでは、途中、かなり不安定な部分があり、落石が多発する。前後の間隔を開けていく。
 そして雪渓の最上部にたどり着き、アイゼンを履いて下り始める。近藤がトップとなり、一人ずつ前の人のトレースを踏んで、雪渓を踏み抜かないように行く。トップはさしずめ、炭坑のカナリヤか。
 こうして熊ノ岩まで下り、ひとまず安心する。あとはクレバスも無い雪渓を歩けばBCだ。このときの歩きは、異様にハイペースで、岩澤は追いつけなかった。真砂沢BCに着く頃には、全員クタクタであった。

8/18日 晴れ ~八ツ峰上半縦走~
BC4:30~7:00五・六のコル~8:20六峰~9:45六・七のコル~11:50八ツ峰の頭~13:15長次郎谷右又~14:40BC

 快晴だ。石丸は、以前捻挫した足が、前日の影響で少し痛み出したようなので、テントに残る。長次郎谷をぐんぐん登り、五・六のコルを登り詰め、取り付く。最初の登りでは、岩沢が少し難しいところに入り込み、吉田をビレイして登らせる。六峰はピークが二つあり、共にまとめて「六峰」と呼ぶのは違和感がある。快晴で、槍ヶ岳も見えた。
 2回懸垂下降して六・七のコルに降り立ち、七峰へ登る。続く八峰への登りは非常に怖い。1年分の「怖い」発言を使いきるほど。八峰と頭のコルには懸垂で降り立ち、頭へは、フリーで登った山川がロープをフィックスし、あとの3人はプルージックで登る。やはり快晴で、剣岳南面の全容が一望できる。
 長次郎の右又へと下っていく。雪渓は危険なので、脇のガレ場を通り、下降する。一度ハイマツを支点にして30mほど懸垂下降する。すこし下ると、もう熊の岩は目の前で、そこから雪渓上に乗る。このとき、かなり大きな落石を発生させてしまう。人の頭より大きいくらいの岩石が、ゴロゴロと雪渓上を転がり、見えないところまで行ってしまった。
 前日をさらに上回るハイペースで雪渓を下り、BCに着く。今度こそ装備を思う存分干す。
 天気図をとってみると、昨日雨を降らせた低気圧と前線は、太平洋に抜けてしまっているが、その代わりに、新たな低気圧と前線が、朝鮮半島上空に出現している。どうやら今日は、低気圧と低気圧の間にできた、ほんの束の間の晴れだったようだ。これ以上ここにいても、しばらく悪天候が続きそうなので、翌日に予定していた三ノ窓ラウンドは取り止めにし、下山することにする。

8月19日 雨 → 暴風雨 ~下山~
5:15BC~6:35登山道に上がる~8:20別山乗越~9:10雷鳥沢~10:10室堂ターミナル

 4時起床。今日は天気が崩れることが分かっていたが、幸いまだ降り出していないので、テントを乾いたままたたむことができる。撤収作業があったのに、なぜかいつもより早く出発準備が整ってしまった。
 さあ出発というころから、雨が降り出す。岩澤が先頭で雪渓を登っていくが、思うようにペースが上がらない。雨は強くなったり弱くなったりの繰り返しだ。登山道に上がって間もなく、岩沢がバテて、最後尾を皆から遅れて歩くようになる。剣沢キャンプ場の駐在所に、下山の連絡をして別山乗越を目指す。岩澤はダラダラと遅れて登っていく。強い雨に加えて、風が出てきて、雨粒がピシピシと体に打ち付けるようになる。体は下着までずぶずぶに濡れ、水を吸って重量を増したザックが、背に重くのしかかる。
 別山乗越で休む間もなく、雷鳥沢を下る。雨はますますきつくなり、風は、まっすぐ歩くのも難しいほどに強く吹き付ける。もはや「嵐」と呼んで差し支えのない暴風雨となる。そんな中、近藤と吉田は、しりとりをしながら歩く。
 雷鳥平で、石丸が雷鳥を見つける。しかしバテている岩澤は、この最悪の嵐の中、そんなトリごときの存在、どうでもいいじゃないかと、ノーリアクションでただ歩いた。
 黙々と足を進めて、ようやく室堂ターミナルにたどり着く。いつもなら観光客でにぎわう遊歩道でも、数名の登山者とすれ違ったほか、全く人は歩いていなかった。この悪天候なら当然だろう。ところが、建物の中に一歩足を踏み入れると、そこはたくさんの観光客でごった返している。この人たちは、こんな日に、こんなところへ、いったい何をしに来たというのだろうか。
 ともかく、ようやく雨の当たらない空間に入ることができた我々は、登山装束を脱ぎ捨てて、サンダルに短パンという下界モードへトランスフォームする。脱いだ登山靴の中からは、ジャボジャボと水がこぼれ出し、あたりの床を水浸しにしてしまった。
 この日の雨で、富山地鉄は一時運休状態に陥っていたらしい。幸い、我々が立山駅に着くころには復旧していて、無事に富山に到着した。富山市街地では、雨はもう止んでおり、いつもの銭湯鶴の湯で汚れを落としてから、餃子会館でビールを飲み、この合宿の締めくくりとした。